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研究レポート

危険運転致死傷罪について

著者:弁護士法人リバーシティ法律事務所

2008/2/14

危険運転致死傷罪について
(平成13年12月5日公布、同年12月25日施行)

《はじめに》

 この文章は,危険運転致死傷罪が公布・施行された直後の平成14年に,千葉県で初めて同罪で起訴された被告人の国選弁護人となった筆者が,弁護を担当するにあたり調査し,その後の弁護士有志の勉強会で発表するために作成したものが基となっています。
 6年経ち,改正が行われていることから修正加筆しましたが,平成20年1月末現在の情報に基づいています。
 その後の法律の改正や判例の変更などにより内容の正確性を担保しきれない場合もありますので,ご自身で最新の情報をご調査下さいますようお願いいたします。
 基本的には,衆議院,参議院及び法務省のホームページに掲載されている会議録・法案などの資料を参考に作成してあります。

(危険運転致死傷)

 刑法第208条の2  アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車(※1)を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下(※2)の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。

2 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。

※1 平成19年6月12日施行改正法により四輪以上という限定がなくなった。
   なお同時に,自動車運転過失致死傷罪が創設された。
※2 平成17年1月1日施行改正法により15年以下の懲役となった。

【総論】

1 危険運転致死傷罪の創設理由
 近時、飲酒運転や著しい高速度運転などの悪質かつ危険な自動車の運転行為による死傷事犯が少なからず発生している。これまでは、このような事犯についても、不注意な運転行為によるものとして業務上過失致死傷罪により処罰されてきたが、同罪は、これらの事犯の悪質性や重大性に的確に対応するものではなく、国民の間にも罰則の整備を求める声が高まっていることから、事案の実態に即した適切な処罰を行うための法整備が必要となった。

2 刑法に定められた理由
※ 警察庁の試案では道交法改正、民主党は特別法として国会に提案していた(否決)
① 保護法益が人の生命身体の安全であり、暴行の結果としての傷害、傷害致死罪に準ずる性格の犯罪であることから、基本的一般的な犯罪であること
② 今日における自動車の広範な普及の実情などに鑑みれば、国民の日常生活に極めて密接な犯罪であること
  → 刑事の基本法である刑法に定めた。(中川義雄法務大臣政務官(当時)の答弁)

3 本罪の法的性質
道路交通法違反の中でもっとも危険が多い(重い)類型に絞って前提行為として刑法に取り込み結果的加重犯にしたもの
(1)危険運転行為が故意犯で、致死傷については結果的加重犯
  → 結果発生についての認容などは不要
(2)刑法典中に基本となる行為について処罰していない罪で結果的加重犯となる犯罪類型は初めて。
従来とは異なる特殊な結果的加重犯(川端教授の衆議院法務委員会での発言)
(3)前提行為である危険運転行為が犯罪ではない(道路交通法違反ではない)場合もありえる。
ex.「高速度」など

【構成要件】

1 自動車=四輪以上の自動車に限られない。
※創設時は自動二輪が対象となっていなかった。
 理由(古田刑事局長(当時)の衆議院法務委員会での答弁)
 ① 重大な死傷事犯を生じさせる危険性が四輪に比べると類型的に低い
 (重量が軽い、走行の安定性が著しく劣るので悪質危険な運転行為をすると自爆事故につながる)
 ② 四輪以上の自動車と衝突した場合、相手方が軽傷になる場合が非常に多くなり、重大結果をもたらす危険な行為を処罰しようとしている趣旨とあわなくなる。

◎平成19年6月12日施行の改正法により,現在では四輪以上という限定はなくなり二輪車も対象となった。
 創設時の衆参両法務委員会の付帯決議を受け,二輪車による事犯を調査したところ,重大な結果が生じている事故が少なからずあったこと,被害者遺族などから四輪以上に限定されていることに疑問の声があがったことが二輪車にも適用範囲を広げた理由に挙げられている(小津刑事局長(当時)の衆議院法務委員会での答弁)

2 第1項
車両の走行自体を正常にコントロールできない、あるいは非常に困難な、自動車の走行方法をとっている場合を整理した規定
「走行させ」
   全体として車の走行のコントロールが非常に困難な状態、そういう運転行為
   →車両を道路あるいは交通の状況に従って的確に走行させることが困難な状態
    ◎このような状態を認識していることが必要
(1)前段
  「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」
   →現に車の走行のコントロールが困難になっていること
   cf 道路交通法上の酒酔い運転:正常な運転ができないおそれがあれば足りる
(2)後段
  「その進行を制御することが困難な高速度で」
   →道路状況に応じて車をコントロールして走らせることが大変難しい、そういうような高速度
   ex.カーブで曲がりきれないような高速度
ハンドルやブレーキ操作のほんのわずかなミスによって自車が進路から逸脱してしまうような速度
  「その進行を制御する技能を有しないで」
   →ハンドルやブレーキの運転装置などを操作する初歩的な技能を持たない、非常に未熟な状態
   ex. 免許の試験をまもなく受けられるという程度の技量がある場合
         →当たらない?
       普通乗用車しか運転しない人が、運転について特殊な技能を有する大型の車両を運転する場合に全く知識や技能を欠いている場合
         →当たる?

3 第2項
自動車の走行全体のコントロールはできるけれども、その過程の中で、非常に危険な運転行為、車両の操縦行為をする場面をとらえて類型化したもの
「運転し」:ある時点での車の操作自体が問題になる行為(特定の運転のための行為)
  ex.割り込み、あおり、信号無視
(1)前段
 「人又は車の通行を妨害する目的」
  → 相手方に自車との衝突を避けるため急な回避措置をとらせるなど、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図した場合
 「重大な交通の危険を生じさせる速度」
  → 衝突などの事故を起こした場合に、その事故が相当程度の大きな事故になる、そういう速度
 制限速度未満であったとしても、これに該当する場合あり。
(2)後段
 「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し」
  → 故意による赤信号無視の中で、およそ赤色信号に従う意思がない行為
 ◎未必の故意は完全に排除される(川端博教授の衆議院法務委員会での発言)

【罪数】

前提行為である酒酔い運転、酒気帯び運転など道路交通法違反は、危険運転致死傷罪に吸収される(古田刑事局長の参議院法務委員会での発言)

【法定刑】

1 傷害:10年以下の懲役(※創設当時の規定,現在は15年以下の懲役)
死亡:1年以上の有期懲役とされた理由
① 危険な運転行為が暴行あるいはこれに準ずる行為であるから、法定刑の上限を傷害致死罪にあわせるのが適当である。
② 自動車事故の特徴として、一回の事故で多数人が死亡する場合があることを考慮すると、法定刑(の上限)は有期懲役刑の(最高)限度まで定めておく必要がある。
2 罰金刑をもうけなかった理由(横内正明副大臣(当時)の参議院法務委員会における答弁)
 傷害罪は重さの程度が千差万別、凶器を用いるような場合もあれば、素手で殴るという比較的軽微な危険性しか有しないものもある
 自動車運転は、重量や速度に照らして衝突すれば大きな衝撃を発し、重大な死傷事犯になる危険性が類型的に極めて高い
 行為の態様も極めて反社会性が強い運転行為
  → 傷害結果がたまたま軽いものであっても懲役刑を持って臨むのが相当

【問題点】

1 極めて軽傷にとどまった場合、被害者の落ち度も相当大きい場合どのような処理がされるのか
 危険運転致死傷罪をもって処理されるのか、業務上過失致死傷罪に落として処理されるのか?(罰金刑が定められていなかった公務執行妨害の場合、傷害に落として罰金処理されていた。なお現在では,公務執行妨害罪には50万円以下の罰金刑も定められている。)
2 故意の対象となる基本行為の構成要件が不明確
「正常な運転が困難な状態」「進行を制御することが困難な高速度」
「重大な交通の危険を生じさせる速度」など
 → これらの認識、認容が必要であるが立証が困難なのではないかとして、自白偏重となるおそれを指摘する意見もある。
3 共犯
基本行為が故意でなされるとすると、共犯規定の適用もあるのか?
ex.同乗者が危険運転の指示をしたような場合
4 二重轣過の場合
→207条(同時傷害)の適用は?

【創設当時の衆議院法務委員会付帯決議】

政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。

 一 本法の運用に当たっては、危険運転致死傷罪の対象が不当に拡大され、濫用されることのないよう、その構成要件の内容等も含め、関係機関に対する周知徹底に努めること。

 二 本法が四輪以上の自動車の運転者を対象としていることについては、今後の事故の実態を踏まえ、自動二輪車の運転者をも本法の対象とする必要性がないかを引き続き検討すること。

 三 刑の裁量的免除規定については、軽傷事犯の取扱いに際し、被害者の感情に適切な考慮を払うこととし、今後における実務の運用をみながら、引き続き検討を行うこと。

 四 交通事犯の被害者等に対する情報提供など被害者保護策について、更なる充実に努めること。

 五 悪質かつ危険な運転行為を行った者について、運転免許にかかる欠格期間の在り方等を含め更に幅広く検討を進めること。

 六 危険運転致死傷罪に該当しない交通事犯一般についても、本改正の趣旨を踏まえ、事案の悪質性、危険性等の情状に応じた厳正かつ的確な処断が行われるよう努めること。

【創設当時の参議院法務委員会附帯決議】

政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
 1 危険運転致死傷罪の創設が、悪質・危険な運転を行った者に対する罰則強化であることにかんがみ、その運用に当たっては、濫用されることのないよう留意するとともに、同罪に該当しない交通事犯一般についても事案の悪質性、危険性等の情状に応じた適切な処断が行われるよう努めること。

 2 本法が四輪以上の自動車の運転者に対象を限定していることについては、自動二輪車による事故の実態を踏まえて、その運転者をも本法の対象とする必要性につき引き続き検討すること。

 3 刑の裁量的免除規定については、事件の取扱いに際し、被害者の感情に適切な配慮を払うとともに、軽傷事犯についても適正な捜査の遂行に遺憾なきを期すること。

 4 交通事犯の被害者等に対する情報提供、精神的ケアなど被害者保護策について、更なる充実に努めること。

 5 悪質・危険な運転行為を行った者について、運転免許にかかる欠格期間の在り方等を含め更に幅広く検討を進めること。

 6 飲酒運転等の悪質・危険な運転が引き起こす結果の重大さ、悲惨さにかんがみ、これらの運転が許されないことについて国民の意識の一層の向上を図り、事故の未然防止に努めること。

 7 本改正と併せて交通事故防止対策の観点から、道路交通環境の整備、交通安全教育の徹底等交通安全施策を一層強力に推進すること。

危険運転致死傷罪について

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