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研究レポート

判例ができるまで

著者:弁護士 宮本勇人

2005/8/23

私が弁護士になって5年目に経験した事案を紹介します。

事案の概要

昭和60年10月   共済組合(Y)がXに対して住宅資金として850万円を貸付
 その際に共済組合貸付規則(退職時に未償還部分即時に償還しなければならない旨の規定がある)を知った上で貸付が行われたことが借用書に記載されている
平成11年9月   X破産申立
平成11年11月   破産決定
平成12年3月   退職
 破産管財人が、財団組み入れ部分以外は放棄するとの許可を裁判所からもらう
平成12年4月   退職金支給機関(Z)が退職金を支払う
  (内訳)
 破産宣告時を基準として計算した退職金の額の4分の1は破産財団に組み入れ(管財人に送金)
 残りの4分の3及び破産宣告後から退職時までの部分のうちから貸付金の残金相当額を共済組合に返済
 残りは本人に支払う

素朴な疑問

 私は、Xの破産申立を行いましたが、その際に、本来、Xに戻るべきと思われる退職金についてZがYに直接支払うと言い、実際にYに支払われました。そこで、Yに対して意見書を出し、返還を求めましたが返還に応じなかったのでやむなくYに対し訴訟を提起しました。

 その際に、まず、疑問に思ったのは、Yは退職金について質権を設定したわけではないのに、いわば別除権者と同様な地位で優先的に弁済を受けており、明らかに破産法に反するのではないかと考えました。

判例を調べてみると破産申立後に退職金の支払いが行われ、後に破産宣告がされた場合に共済組合への退職金の払込行為が旧破産法72条2号の否認の対象になると判断した判例(平成2年10月2日最高裁第小法廷昭和59年(オ)454号)を見つけました。

 ただ、本件は破産宣告後に払いが行われたのであるから前記最高裁判例とは事案を異にしますが、破産宣告後はより債権者平等が要請されるわけであるから、別除権者でないYが優先的な地位を有することはとうてい許されないと考えました。あとはどのように理屈をつけていくかです。

検討

 理論構成として、別除権者でもないYは破産手続きに従って債権者平等のもと配当により債権の一部を回収すべきであり、Yの行為は旧破産法16条に反すると主張しましたが、一審では共済組合貸付規則の効力を全面的に認め新得財産又は自由財産からXがYに対して任意の弁済をしたとしてXの請求を棄却しました。

 しかし、2審では全く逆の結論になり、Xの請求が認められました。ZのYに対する払い込みは旧破産法16条の趣旨に反するとともに、民法653条の原則によりXとZとの委任関係(規則には退職金支給機関が退職時に未償還部分について払込代行することが定められていた)が終了しており払い込みが任意の弁済にあたらないことが理由とされました。

 詳細については、下記の参考文献を見てください。

その後

 Yより上告及び上告受理の申立がありましたが、平成15年10月14日に上告棄却、上告受理の申立については不受理として確定しました。Xの勝訴です。ところが、その後も本件と同様な問題は、各地で起こっており、事件を担当した弁護士から半年に一度くらいの割合で東京高裁判決後どうなったかの問い合わせがあります。

 すでに、判例としては確定している以上、共済組合としてはそれに従った対応をしてほしいと考えます。私の扱った事案は、それほど珍しい事案でもないのに、今まで判例がなかったのが不思議でなりませんでした。争うべき問題を弁護士が放置していたのではないことを望むばかりです。

 私が思ったのは、具体的事案を検討してみると当然あってもよい判例が存在しないことも結構あり、その場合は、十分調査した上で(参考になる判例の分析、文献の調査等)いけると思ったら徹底的に争うべきだということです。

 本件と同様の事案について平成18年1月23日最高裁の判決が出ています。
 多くの文献(倒産判例百選第4版p86他)で紹介されていますので参照してください。

参考文献

判例タイムズ1089号291頁
金融法務事情1619号51頁、1645号37頁
判例時報1755号74頁
金融・商事判例1122号21頁
特に金融法務事務事情1645号37頁以下は詳細に検討してあります。

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