裁判要旨
相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ,当該相続人が相続債務もすべて承継した場合,遺留分の侵害額の算定においては,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない
解説
亡くなった方Aは4億3231万7003円(不動産も含む)の財産を持っていましたが、一方で負債も4億2483万2503円残っていました。
Aの相続人としては子供2人(B、C)がいましたが、Bに遺産全部を与える公正証書遺言に基づき、Bが遺産の全部を取得しました。
Cは遺留分減殺請求権として不動産の所有権一部移転登記手続きを求め、負債の法定相続分が遺留分の額に①加算されないか②加算されるかが争いとなりました。
- ①遺産から負債を引いた187万1125円の4分の1
- ②187万1125円の4分の1に負債のうちCの返済する可能性がある額の2億1241万6252円を加えた額
裁判所は「相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ、当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合、遺留分の侵害額の算定においては、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である」(上記①)としました。
-参考条文-
民法第1028条(遺留分の帰属及びその割合)
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
- 一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
- 二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
民法第1029条 (遺留分の算定)
遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
- 2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
その他遺言・相続に関する問題は「相続・遺言・遺産分割に関する法律問題」をご覧ください。
判示事項の要旨
被告は相続欠格者であって,原告が唯一の相続人として被相続人の共有持分を相続したと主張する原告の共有持分確認請求訴訟において,被告は,日付の記載のない遺言書に,被相続人の意思に基づかずに日付を記載し,未だ有効に作成されたものとはいえない遺言書を外形を整えて完成させたのであり,民法891条5号にいう変造をした者に当たるとして,原告の請求を認容した事例
解説
亡くなったAが所有していた土地建物の共有持分権2分の1について、Aの相続人として長男Bと長女Cがおり、Aと同居していた長女CはA作成の「すべて長女Cにまかせる。長男Bには、いっさいあげない。」という自筆証書遺言を保管していました。
裁判所は遺言書の日付がAの筆跡と異なり、長女Cによって書かれたものであると認め、その行為は民法891条5号にいう遺言書の変造にあたり、遺言書を変造した長女Cは相続欠格者となり、Aの遺産は長男Bのみが相続するとしました。
-参考条文-
民法第891条 (相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
- 一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
- 二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
- 三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
- 四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
- 五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
その他遺言・相続に関する問題は「相続・遺言・遺産分割に関する法律問題」をご覧ください。