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Q
当社(X社)は化粧品メーカーで、化粧品の宣伝に人気女優Aを起用しております。
ところが、最近インターネット上で、Aがモデルになっている当社の宣伝用ポスターの画像が、Y社の健康食品のサイトで宣伝に利用されています。具体的には、ポスター下部の、全体の10分の1くらいの部分に記載されている当社、当社製品の宣伝部分がカットされてAの写真だけ利用されています。
当社は、Y社に対し、どのような手段がとれるでしょうか。
プロバイダに対し本件画像についてサーバーからの削除(送信を防止する措置)の要求とY社に対する損害賠償請求(民法709条)が考えられます。
1 侵害されている権利
本件では、ポスターについてのX社の著作権が侵害されていると思われます。
まず、著作権法で定義されている著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、芸術、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいいます(著作権法2条1項1号。以後、明記しない限りすべて著作権法の条文です)。
そして、著作物を創作する者を著作者といいます(2条1項3号)。
著作者は、著作者人格権(18条1項、19条1項、20条1項に規定する権利)と著作権(21条から28条までに規定される権利)を有します(17条1項)。
本件についてみると、Aをモデルにしたポスターも、Aのポーズや表情、撮影方法などによって撮影者の思想又は感情を創作的に表現した美術であると考えられますので、著作物にあたります(10条1項8号)。
Aを撮影したのは、おそらくX社が撮影を委託したカメラマンでしょうから、著作者はそのカメラマンになります。もっとも、X社はカメラマンからAの写真についての著作を譲り受ける契約を締結していると思われます。この場合、X社がこのポスターについて著作権を有します。
では、Y社の行為により、X社の著作権は侵害されているのでしょうか。
著作権は、複数の権利の束であり、これらの権利は具体的には、21条から28条までに規定されています。これらの権利の中で、本件において問題になると思われるのは、複製権と公衆送信権です。
複製権とは著作物を複製する権利であり(21条)、複製とは印刷、写真、複写、録音、録画、その他の方法により有形的に再製することをいいます(2条1項15号本文)。著作物の全体でなく、その一部を再製する場合でも、その部分が原著作物の本質的な部分であってそれだけでも独創性または個性的特徴を具在している部分についてはこれを引用するものは部分的複製をしたものとされ、複製にあたります。
公衆送信権とは著作物について公衆送信を行う権利です(23条1項)。公衆送信には自動公衆送信が含まれ、自動公衆送信については送信可能化も含まれますので、たとえば著作者の許諾がないのにネットワーク上のサーバーにアップロードすることも公衆送信権の侵害行為となります。
Y社のサイトで利用されているAの画像(以下「本件画像」といいます。)は、X社のポスターの一部分をカットしただけのものですので、全体としてX社のポスターと同一と考えられますから、Y社は、X社のポスターを複製したといえます。
また、Y社はX社のポスターをホームページにのせるため、サーバーにポスターの画像をアップロードしていますので、結局、本件ポスターについてX社の複製権と公衆送信権を侵害していることになります。
2 侵害行為に対する措置
では、X社としてはどうすればよいでしょうか。
(1)差止めについて
著作権の侵害に対しては、権利者に早期の救済を与えるため、差止請求が認められています(著作権法112条)。この差止めの請求をするには、侵害行為の存在またはそのおそれの存在があれば足り、損害の発生までは必要ありません。
しかし、裁判手続きで救済を得るまでには時間がかかります。
そこで、まずY社のホームページがアップロードされているサーバーを管理するプロバイダに対して、著作権侵害を理由にサーバーからY社のホームページ上のX社のポスター画像を削除するよう要求するとよいでしょう(送信を防止する措置の要求)。
このような方法がなぜ迅速な権利回復につながるのかを、簡単に説明します。
まず、プロバイダは、X社の削除要求に応じなければ、将来、Y社とともにX社から著作権侵害を理由に損害賠償請求をされる可能性があります。
一方で、Y社のホームページ画像の一部をY社の同意なくサーバーから削除すれば、プロバイダはY社に対し債務不履行や不正行為に基づく損害賠償請求をされる可能性があります。
このような、プロバイダの苦しい立場を考慮してつくられたのが、プロバイダ責任法(正式名「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)です。
同法第3条1項では、特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害された場合(本件ではY社がX社のポスターを自社のホームページで公表している行為)でも、プロバイダは一定の条件の下で、その権利侵害について賠償の責めに任じないこととされています。
また、同条2項では、プロバイダが特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者(本件ではY社)に生じた損害については、一定の条件のもとで賠償責任を負わないこととされています。
そこで、プロバイダが、「Xの削除要求にこたえてもプロバイダ責任法上、Y社に対する賠償責任を免責される。」と判断すれば、X社は削除要求に応じてもらえ、権利侵害を早期に一部回復することができることになります。
プロバイダに迅速に対応してもらうためには、社団法人テレコムサービス協会が公開しているプロバイダ責任法著作権関係ガイドライン及び発信者情報開示請求例などを参考にするとよいでしょう。
(2)損害賠償について
著作権侵害行為によって損害を被った場合、損害賠償請求が可能です(民法709条)。
損害賠償請求が認められるには、709条の要件を充たす必要がありますが、著作権侵害に基づく損害賠償請求をする場合の損害額については推定規定があり、侵害者が侵害行為により得た利益額(著作権法114条1項)、侵害に対する相当な対価の額(同条2項)の賠償を請求することができます。
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