1. 購入者と小売店との間の法律関係

　この場合、購入者と小売店との間には、フェースパウダーを目的物とする売買契約（民法５５５条）が成立しており、小売店は同契約に基づき購入者にフェースパウダーを引き渡す義務があり、購入者は小売店に対しその代金を支払う義務を負います。

　売買の目的物であるフェースパウダーは、民法上の不特定物（その物の個性が着目されていないもののこと。つまり、同じメーカーの同じ製品であればよいのです。）にあたります。

　通常、購入者は、新品の、使用に適するフェースパウダーを買いに来ており、小売店もそのようなフェースパウダーを売る意思があります。

　すると、小売店は、売買契約に基づき、新品の使用に適するフェースパウダーを購入者に引き渡す義務があることになります（これを債務の本旨に従った給付をする義務といいます。）

　本件では、購入した当初から、フェースパウダーに２ミリくらいの大きさの黒いほこりのような異物が混入していたのですから、小売店は購入者との売買契約に基づく債務の本旨に従った給付をしていないことになります。

　そこで、購入者は、小売店に対し、売買契約に基づき、上記引き渡し義務を履行するように請求できます。すなわち、異物の混入していない、新品のフェースパウダーを引き渡すよう、請求できることになります。

　では、購入者は、小売店に新品のフェースパウダーの引き渡しを求めずに、売買契約を解除して代金を返還してもらえるでしょうか。

　通常は、購入者が解除を求めれば、小売店と購入者との間で、合意によって解除することになると考えられます。すると、契約は遡って無効となるので、購入者は、既に支払ったフェースパウダーの代金を返還してもらえることになります。

　万が一、小売店が、売買契約を解除することを拒んでいる場合は、民法５４１条に基づき履行遅滞解除をすることが考えられます。

　民法５４１条によれば、契約当事者の一方が債務の履行を遅滞している他方に対して、債務の履行（遅滞した期間分の損害分も含む）を催促してから、解除の意思表示をしなければなりません（民法５４１条）。

　本件でいえば、購入者が、小売店に対して、新品のフェースパウダーを引き渡す機会を与えて、なお小売店が引き渡さなければ、履行遅滞に基づく解除をすることができますが、そうでない限り、同条による解除はできません。

2. 購入者とメーカーとの間の法律関係

　次に、購入者は、メーカーに、なんらかの請求をすることが可能でしょうか。

　購入者とメーカーとの間には契約関係がないので、考えられるのは、製造物責任法及び不法行為に基づく損害賠償請求権の主張です。

　まず、製造物責任及び不法行為責任に共通することを述べますと、そもそも損害がなければ損害賠償請求はできません。購入者が、新品のフェースパウダーを小売店から引き渡された場合は、財産的損害が生じていないことになるでしょう。フェースパウダーに異物が購入していたことを理由とする精神的損害については、理論的には発生していると主張することは可能ですが、どれくらいの損害を受けたかという点について、証明することが困難なので、裁判上ではメーカーに対して損害賠償請求をすることはできないと思われます。実際には、メーカーに苦情を言った場合に、メーカーから謝罪や粗品の進呈を受けて、精神的損害が填補されたことにする場合が多いでしょう。

　また、製造物責任について述べますと、製造物責任法にいう「製造物の欠陥」は、「製造物が、通常有すべき安全性を欠いていること」をいい、安全性に関係のない品質や性能の瑕疵は含まれません。

　したがって、顔の表面につけるフェースパウダーに、黒い異物が入っていても、それがただちに皮膚の炎症を起こすような劇物でない限り、製造物責任法の「欠陥」とはいえず、同法による救済はないと思われます。