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研究レポート

5 同業者以外によるブランドの盗用

著者:弁護士(日本・米国ニューヨーク州)・弁理士 南部 朋子

Q

当社(X社)は創業70年の老舗の高級化粧品メーカーで、NOPQRというブランド名で化粧品を製造・販売し、全国各地に営業所を展開しております。
 ところが、ある地方で2,3年前からNOPQRという店名でカラオケボックスを営業しているYという者がいます。当社としては、カラオケボックスの店名にNOPQRを使用して営業されることについては、ブランドイメージもさがりますので大変迷惑しております。
ただちにYに当社名の使用をやめさせたいのですが、どうすればよいでしょうか。
 なお、当社は指定商品を化粧品として「NOPQR」を商標登録しています。

1. 結論

 Yに対し、著名表示冒用差止請求権(不正競争防止法2条1項2号、同3条)を理由に、「NOPQR」という表示の使用をやめ、看板等を撤去することを求める通知書を内容証明郵便で送付すればよいでしょう。
 通知書の中に、「NOPQR」という表示の使用をやめなければ、X社からYに対して損害賠償請求をすることもありうる旨記載すると、より効果的な場合があります。

2. 解説

1 不正競争防止法による権利救済について

 「NOPQR」というブランドは、全国的に有名であると考えられますので、「NOPQR」は著名表示であるといえ、Yによる「NOPQR」の使用は不正競争防止法2条1項2号に該当するものと思われます。

 不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保することを目的としており、その保護を受けるためには商標の登録は必要なく、指定商品・指定役務による保護範囲の制約もありません。
 その代わり、相手の行為を不正競争行為として排除するためには、一定の要件が必要とされており、この要件については、不正競争防止法2条1項各号に記載があります。

 不正競争防止法2条1項は、いかなる行為が不正競争行為にあたるかを規定しており、例えば、不正競争防止法2条1項2号は、多くの費用、労力、時間を費やして作られる著名なブランドのイメージや顧客吸収力を守るため、他人の著名表示を使用することを不正競争行為としています。
 同条2号で規定されている不正競争行為の要件は、

 (1) 自己の商品等表示として
 (2) 他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを
 (3) 使用等すること

です。

 商品等表示とは、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいい(不正競争防止法2条1項1号)、自他識別機能(他の類似する商品や役務と区別する機能)と出所表示機能(誰の製造・販売によるかを示す機能)をもつ表示をいいます。
 本問でも、「NOPQR」というブランドは自他識別機能と出所表示機能を有する商品等表示といえ、この表示はX社が多くの費用、労力、時間をかけて著名なものとなったと思われます。
 Yに「NOPQR」というブランドを、自己のカラオケボックスの営業の表示として自由に使用することを許すと、事業者間の公正な競争は確保できないことになります。

 したがって、Yが「NOPQR」をカラオケボックスの店名として使用することは、不正競争防止法2条1項2号に該当し、X社はYに対し不正競争によって営業上の利益を侵害されるおそれがあるとして「NOPQR」の使用をやめるよう請求でき、その際「NOPQR」の看板その他の広告等を撤去するよう求めることができるのです(不正競争防止法3条)。

 また、故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(不正競争防止法第4条本文)。
 Yが「NOPQR」ブランドを使用してX社の営業上の利益を侵害し、これによりX社から損害賠償請求される可能性があるということ通知すると、Yはこれを恐れて、早期に自主的に侵害行為を停止してくれるかも知れません。

2 商標法による権利救済について

 本件では、「NOPQR」が指定商品を化粧品として商標登録されているので、商標法による権利救済についても考えてみます。

 商標法では、一定の商品や役務を指定して商標の登録を受けたもの(商標権者)に対し、当該商品や役務(指定商品、指定役務)について登録商標を独占的に使用する権利を与えています。
 指定された商品や役務、あるいは指定商品・役務と類似する商品・役務について登録された商標を、商標権者の承諾なく使用した場合は、商標権侵害となります。(商標法25条、37条1項)。この場合、商標権者は、侵害者に対して商標権侵害行為の差し止め(商標法36条1項)、損害賠償(民法709条)、信用回復の措置(商標法39条、特許法106条)などを求めることができます。

 本件でいえば、Yが化粧品について「NOPQR」という商標を使った場合には、X社の商標権侵害となります。Yが化粧品について「NOPQR」という商標を使わなくても、化粧品と類似の商品や役務の提供に使用するとX社の商標権侵害となります。
 登録商標の使用が問題となっている商品やサービスが、登録商標の指定商品・指定役務と類似するかどうかは、取引の対象、形態、流通経路等を考慮して需要者(商品や役務の提供を受ける人)が役務と商品の出所を混同するか否かで主に判断します。

 本件について考えてみると、化粧品の需要者の範囲と、カラオケボックスの需要者の範囲は一致するとはいえませんし、化粧品の販売場所とカラオケボックスのある場所はとくに一致しませんので、需要者は、「NOPQR」というカラオケボックスが「NOPQR」という化粧品を製造している会社により提供されていると考えることはあまりないものと思われます。

 ですから、本件のような、Yによる「NOPQR」の使用は商標権侵害にあたらないことになり、商標権侵害を理由とする「NOPQR」商標の差し止め請求等は認められないものと思われます。

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