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研究レポート

15 相続分野の民法改正

著者:弁護士 宮本勇人

2018/7/17
(改訂)2018/ 8/21
(改訂)2018/11/27
(改訂)2019/ 2/ 5
(改訂)2019/ 9/24

 民法の改正については、債権法の改正について多くの本が出ていて、実務的にも盛んに議論されています。ところが、それに比べて相続についての40年ぶりの民法の改正(平成30年7月6日に成立)については、債権法の改正の陰に隠れて、それほど話題になっていませんが、一般の人々から見れば債権法の改正より、相続分野の改正の方が重要であると考えますので、一応の内容については押さえておいた方がよいでしょう。

まず、改正法の施行期日ですが

  • ・自筆証書遺言の方式を緩和する方策 → すでに施行されています。
  • ・原則的な施行期日         → 2019年7月 1日
    (遺産分割前の預貯金の払い戻し制度、遺留分制度の見直し、相続の効力等に関する見直し、
     特別の寄与等その他の規定)
  • ・配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等 → 2020年 4月 1日
  • ・法務局における遺言書の保管制度      → 2020年 7月10日

となりました。

(1)自筆証書遺言の方式の緩和
 従来、自筆証書遺言では、その全文を自書しなければならないとされていたため、遺言者が多数の不動産や預貯金口座を有している場合、財産目録作成するのに大変な負担になっていました。
 しかし、改正法によって➀自筆証書に財産目録の一部または全部の目録を添付するときはその目録については自書することを要しない、➁自筆証書によらない目録を添付する場合には遺言者は、目録の各頁に署名押印をしなければならないとされました。財産目録の方式については、特段の定めがないので不動産の登記事項証明書や預貯金通帳の写し等を財産目録として添付することも許されます。
 但し、財産目録以外の部分については従前のままですので、自筆証書遺言として効力を有するには、法律に定められた方式に従う必要があります。(法務局における遺言書の保管制度が施行されれば、もう少し、自筆証書遺言も使い易いものになるでしょう。)

(2)配偶者の居住権を保護するための方策
➀ 配偶者居住権 これは、配偶者が死亡した場合に、生存配偶者が終身、住み続けることができる権利で、賃貸借に類似したものです。
 現行法では、死亡した配偶者に不動産と預貯金がある場合、生存配偶者が不動産に住み続けるには、不動産を相続し、その分預貯金を相続する割合が減ることになります。しかし、このように、不動産を取得することにより預貯金の取得が減ると、生存配偶者の生活が困窮することにもなりかねません。そこで、配偶者居住権を認めることで、より多くの預貯金を生存配偶者に確保できるようにしたのです。

➁ 配偶者短期居住権 これは、通例、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日、又は相続開始の時から6か月を経過した日のいずれか遅い方から6か月、生存配偶者の居住が認められる権利で、使用貸借に類似したものです。

(3)遺留分制度に関する見直し
 改正前の制度では、不動産について遺留分減殺請求権を行使すると、当然に物権的効果が発生し、結果的に遺留分権者と受遺者等の間で共有になりました。しかし、このように共有になると不動産の処分が困難になり、事業承継に支障をきたすことにもなりかねません。例えば、会社が利用している土地が被相続人の所有である場合、遺留分減殺請求権が行使されると、当然に共有になりますが、共有者が反対すれば土地を担保に入れることや、処分することができなくなります。
 そこで改正法は、遺留分に関する権利の行使によって、遺留分権利者は、受遺者等に対し、遺留分侵害額に相当する金銭債権を取得するとしました。また、遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者等が金銭を直ちに準備できない場合、受遺者等は裁判所に対し、金銭債権の全部または一部の支払いにつき期限の許与を求めることができます。
 但し、金銭債権を支払うことができない場合に、その代わりとして、相続した不動産を譲り渡す場合は、代物弁済として譲渡所得税が発生するので注意する必要があります。そのような場合は、相続人全員を巻き込んで遺産分割協議をすることも検討すべきでしょう。

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