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研究レポート

37 ロボットに罰則、刑罰はあるか問う質問に対して

著者:弁護士 梅村陽一郎

2015/10/1

1 はじめに

 ロボットは単なる物体であって人間ではない。人間のように権利があるわけではない。
 ロボットには権利がない。奪われる権利(生命、自由、名誉、財産)がない以上、罰則があっても無意味ではないだろうか。

 ただ、「ロボットに罰則はあるか 」は、よく聞かれる質問である。この点に興味がある人が多い。
進化したロボット(人工知能?)がまるで人間に近接した存在、あるいは人間を超える存在?になる未来をつい想像してしまうのか。

 ロボットの議員(コルト議員) までいるアトムの世界を想像し、ロボットも人権の享有主体のように感じられてしまう人間の気持ちは不自然ではないのであろう。

 人間に対する罰則、刑罰はどのようなものかを考えてみることで、ロボットにも罰則の適用が必要なのかを考えてみよう。

2 刑罰

刑罰の意義

 刑罰とは、「犯罪に対する法律上の効果として行為者に科せられる法益の剥奪を内容とした処分」である(法律学小辞典第4版より)。

 刑罰の本質はどこにあるのか。

➀一般予防
 刑罰を法律で定めることで、犯罪を犯すとこんな刑罰を受けるよと予告することで犯罪を犯さないようにする。
 刑罰が執行されることで(みせしめ)、ほかの人間が犯罪を犯さないようにする。
➁特別予防
 特定の犯罪者の再犯を防止する。執行猶予判決を受けた者が取り消しをおそれ自重するということもある。
➂応報
 犯罪により生じた害悪に対する応報

 人間はコンピュータではないので、短時間で人為的な修正、アップデートもできない。

刑罰の種類
➀生命を奪う(死刑)
➁財産を奪うという支払えば終わりという刑罰(罰金、科料)
➂自由を奪う(懲役、拘留)。

 自由を奪いつつ施設内で再教育を行い更生させる(矯正、具体的には刑務作業や職業訓練)という気長な方策をとる場面も多い。改善、更生、社会復帰を目指す場合、アップデートがすぐにできれば苦労しないが、人間への教育は機械のアップデートのようにはいかない。仮釈放中の保護観察のようなケアが必要な場面もある。

3 保安処分

 刑罰ではないが保安処分というものもある
 行為者が将来犯罪を反復する危険性から社会防衛を期するために、刑罰を補充し又は刑罰に代わり用いられる治療・処分を内容とした、施設収容を主体とする処分(法律学小辞典第4版より)。
 保安処分は、犯人の将来の危険性を基礎とする。
 日本の改正刑法草案にも治療処分と禁絶処分が規定されていた。当然であるが、人権侵害のおそれがあるとして批判が強く改正刑法草案はお蔵入り。

保安拘禁
 危険な常習犯人を長期にわたって拘禁し、隔離することによって社会防衛を図ろうとする保安処分。
フランスの1885年法によるルレガシオン(植民地流刑)は実質的には保安処分だったという評価もある。

4 ロボット分類

 ロボットへの罰則適用を考える前に、ロボットが人間に近いものなのか(生死があるのか)、コンピュータと同じようにバックアップやレストアができるのかという視点から分類することにする。ユニークな存在(世界に一つだけ、死んだら終わり)なのか否かという点、併存するコピーが存在しうるのか(自分のコピーがいっぱいいる、復活もできる)という点は重要なのではないだろうか。タイプBCはともかく、タイプAくらいになると人権(というよりもロボット権、ロボ権、ロ権)を認める話、愛護の対象になるという話が出てもおかしくないかもしれない。ロボットが人権享有主体であれば罰則の話も意味のある話である。

タイプ分け

タイプA
 鉄腕アトムの世界は一点ものロボット(アトムの頭脳は複製、バックアップできなさそう。アトムという機械単体から切り離すと人工知能は切り離し前の状態を維持しない?。事後的な性格改造もできなさそう。人間に近い。問題となったドラえもん最終回(同人誌)のドラえもんも似たようなもの?バッテリーを抜いたり人工知能を切り離すと初期化される?)

タイプB
 攻殻機動隊のタチコマは一点もの?ただし並列化可能(天然オイルタチコマは一点もののようであったが、並列化で別のタチコマに影響を与えた? どちらにしても少佐が作戦に向かないと判断したくらいなのでアップデート、再教育は難しかったようである。個々のタチコマは死を意識しているようなのでタイプAに近いのかもしれない)

タイプC
 現実の世界のロボットの頭脳は単なるコンピュータ、一点ものでもなんでもなく、アップデート、複製、バックアップが可能な大量生産品、あるいは大量生産品のためのプロトタイプ、再教育可能(結局一点ものの属性、コピーできない、バックアップできない、初期段階を過ぎると人為的アップデートできない、切り離すと初期化?という性格を持たない。)。ロボットの人工知能がクラウド上にあったとしても複製可能であり、人間が再教育できるのであればタイプCに含める。

5 タイプCロボットへの罰則適用

 まず現実に存在しているタイプCのロボットに刑罰(あるいは保安処分)を科してもメリットがあるのかどうかを検討してみる。

➀死刑
 人工知能がバックアップできるのであれば、犯罪?を犯した単体のロボットを処分してもバックアップを別の個体にレストアすれば蘇るので死刑の意味がないのでは?一般市民の応報感情も満たされない。
➁罰金、科料
 そもそもロボットはお金を持っていない。たまたま持っていてもお金に執着する性格を持たされていなければ一般予防も特別予防も意味がなさそう。この点はお金持ちに安い罰金を科しても何らの感銘力を持たないことと同様。痛くもかゆくもない。一般市民の応報感情をみたさない。
➂懲役、拘留
 自由を奪われる個体があったとしても、自由な生活に執着する性格を持たされていなければ一般予防も特別予防も意味がなさそう。痛くもかゆくもない。一般市民の応報感情を満たす可能性はある。
 バックアップを施設外の個体にレストアすれば施設内にいるロボットと同じものが施設外にいる。
問題を起こした個体だけ施設に入れても意味がない。
 社会復帰を目指すというのであれば、さっさと問題を起こした個体のアップデートを行うべき(同一機種すべてのアップデートも行わなければ意味がない)。
➃保安拘禁
 長期間隔離するだけコストがかかる。危険性があればさっさと問題を起こした個体全てにアップデートを行うべき(同一機種すべてのアップデートも行わなければ意味がない)。

 人間への刑罰は一般予防や特別予防という効果を期待しているが、ロボットに刑罰を科しても一般予防や特別予防という効果を得られない。
 刑罰の効果を得られないのであれば、実施するだけ無駄というものである。実施することに意味があるのではなく、効果が得られることに意味があるのである。
 ロボットの場合、ソフトウェアが改善できるのであれば同じタイプのロボットのソフトウェアを書き換えればよいだけであるしハードウェアの問題であるのであれば、これも修正すればよい。
 修正できないのであれば使用を停止するだけでよい。使用を停止したロボットは放置してもよいし、再資源化してもよい。
 ロボットの破壊(死刑?)は、被害者感情の満足という点、再資源化では意味があるかもしれないが、それ以上ではない。
 ロボットが犯罪を起こしていない段階でも、問題を起こしそうだということが判明し同一機種をリコール、アップデートで無害化、無害化できなければ使用停止すれば社会防衛は達成される。ロボットへの保安処分(治療処分)は社会防衛という効果を期待でき、人権(というよりもロボット権、ロボ権、ロ権)侵害という問題が今のところないことから、許容性のある目的達成手段といえる。

 結局、タイプCロボットへの罰則は意味がなく、タイプC ロボットに対するリコール、修理は意味があるかもしれないという結論に至る。いろいろ書いてみたものの結論としては常識的な範囲に収まったようだ。

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