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研究レポート

1 「内定」とは

著者:弁護士法人リバーシティ法律事務所

2008/2/25
(改訂)2012/4/20

1. 総論

典型的な新卒者採用の場合、面接などの採用試験を実施した後、企業は、採用したいと思う学生に対して、「採用内定」(以下単に「内定」という。)を出すことが多い。
この内定は、「始期付解約権留保付雇用契約」の成立を意味するとされる(昭和54年7月20日最高裁判所第2小法廷判決 最高裁判所民事判例集33巻5号582頁、昭和55年5月30日最高裁判所第2小法廷判決 最高裁判所民事判例集34巻3号464頁)。
つまり、内定を出すということは、求人に応募するという申込に対する承諾であり、企業と求人に応募してきた人との間に雇用契約を成立させるという効果をもたらす。
ただし、その雇用契約には、「始期」があり、「解約権」が「留保」されているとされる。

2. 始期について

(1) 「始期付」については、雇用契約に基づく労務の提供について、始期が定まっていることをいうとする立場と、雇用契約の効力発生の始期と考える立場があり、いずれの立場をとるかによって、就業規則がいつから適用されるかが変わってくる。

(2) 採用内定通知に、「4月1日から」と記載があった場合を例として検討する。
労務の提供の始期と考えると、実際に働き始めるのは4月1日からということになるが、雇用契約は成立し、企業と労働者を拘束するので、就業規則中の労務の提供を前提としない部分については適用されることになる。
一方、雇用契約の効力発生の始期と考えると、実際に仕事を始めるのも、就業規則に拘束されるのも4月1日からということになる。

(3) 二つの立場による具体的な違いの一例を挙げると、たとえば前者の立場であれば、内定が出た時点から当事者は雇用契約に拘束されるので、企業は、内定期間中に業務命令を発して、内定を受けた者に対して研修への参加を義務付けることができる。
一方、後者の立場であれば、雇用契約の効力は発生しておらず、内定を受けた者は業務命令に従う義務を負っていないので、研修への参加を義務付けることはできないということになる。

(4) 二つの立場については、理論的にどちらが正しいということではなく、その事案における当事者の意思によって決まってくるものである。
たとえば、内定通知の文言や、採用面接時のやりとり、その企業での従来の取り扱いなどによって、その企業では実際に就労する前から研修やレポート提出が義務付けられているという場合には、法的には就労始期付と判断されるであろう。
一方、研修への参加やレポート提出の義務がなく、労働契約に定めた日から就労するという場合には、効力始期と判断される場合が多いと思われる。

3. 解約権留保

(1) 解約権留保付とは、通常の解雇の場合よりも、使用者に広く解約権が留保されているということを意味し、簡単にいえば、通常の解雇よりもより広い事由での解約が認められるということである。
たとえば、大学を卒業できなかった場合、内定が取り消されることが多いが、これは、「大学を卒業できなかったこと」が解約事由となるということである。

(2) もっとも、解約権が留保されているとしても、雇用契約が成立している以上、内定の取消しは雇用契約の解約つまり解雇であり、解雇法理(労働契約法第16条)の適用がある。
 冒頭で示した昭和54年7月20日の最高裁判所判例は、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることを期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」との判断を示し、解雇法理の適用がある旨を述べている。

(3) 冒頭で示した最高裁判所の判例は、いずれも始期付解約権留保付雇用契約の成立を認めたが、企業による解約権行使についての結論は正反対であった。

A.企業が内定を出したが、その学生が「グルーミー(陰気)な印象」であるということを理由とした内定取消しについて、裁判所は解約権の濫用と判断した(前掲昭和54年7月20日最高裁判所第2小法廷判決)。

B.企業が内定を出したが、反戦青年委員会に所属し、その活動において大阪市公安条例違反および道路交通法違反で現行犯逮捕され起訴猶予処分を受けていたことを理由とした内定取消しについて、裁判所は「社会通念上相当として是認することが出来る」と判断した(前掲昭和55年5月30日最高裁判所第2小法廷判決)。

(4) 二つの判決について、判断を分けた点を考察する。
Aの判例の場合、学生がグルーミーな印象であるというのは、内定を出す時点からわかっていたことであり、そもそも内定を出さないということが可能であった。
一方、Bの判例の場合、内定を出した後に現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしたことが判明したというのは、内定を出す段階では知りようがない事情である。また、現行犯として逮捕されるほどの違法行為を行うというのは社員としての適格性を欠くといえる。
これらの点が、判断の分かれ目になったと考えられる。

(5) なお、採用内定時に経歴を詐称していた従業員の内定取消について、明確に判断した裁判例は存在しないものの、学歴を低く偽って採用された従業員について、経歴詐称を理由とした懲戒解雇が有効とされた裁判例がある(東京地方裁判所昭和49年12月23日判決 労判217号47頁)。
 その他、大学中退の学歴を秘匿し、高卒と履歴書に記載したことを、懲戒事由に該当し懲戒解雇は有効であると判断した東京高等裁判所平成3年2月20日判決に対して、最高裁判所平成3年9月19日第一小法廷判決は、「原審の適法に確定した事実関係の下において、本件解雇を有効とした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。」との判断を示している。
 内定の場合には解約権が留保されており、通常の解雇より広い事由での解約が認められるという点からすると、学歴を低く偽った場合であっても、「重要な経歴」の詐称に該当し、企業秩序維持に関係する事項について真実を告知すべき義務に違反したものとして、内定の取消が認められる可能性はあるということになる。

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