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研究レポート

2 労働契約法の要点と労働条件の決定、変更について

著者:弁護士法人リバーシティ法律事務所

2008/3/24

1. 平成20年3月1日から施行された労働契約法の要点

1 労働契約法の要点としては、以下のものが挙げられる。

(1) 労働契約においても私的自治の原則が妥当し、使用者と労働者が対等な立場で合意することにより労働契約が成立し、労使の合意で労働契約の内容を変更できることを確認した。
(2) 従来、判例で認められてきた「就業規則の拘束力」、「安全配慮義務」、「出向命令濫用法理」、「懲戒権濫用法理」が新たに定められた。
(3) 労働契約の成立、変更、終了に関する法律として労働契約法が制定されたことにより、労働基準法18条の2が削除され、労働契約法16条に同内容の規定が置かれた。
(4) 期間の定めのある雇用契約における解雇について、従来、民法では明確に定められていなかった部分を明確化した。

2 労働契約法は従来の判例法理を明文化し、労働契約の成立、変更、終了に関して、民法と労働基準法にまたがっていた分野をまとめたものであり、労働契約法の施行によって、労働契約に関する取り扱いが大きく変化するということではない。

3 労働契約法については、労働基準監督官による監督指導及び罰則による履行確保は行われない(厚生労働省の平成20年1月23日付け基発第0123004号「労働契約法の施行について」通達(以下「1月23日付通達」という))ため、労働契約法違反の場合には、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律や労働審判法、通常の民事訴訟などによって解決が図られることになる。

2. 就業規則による労働条件の決定

1 個々の労働契約では細かな労働条件を定めず、就業規則によって画一的に労働条件を決めたいという場合には、以下の要件を備える必要がある(労働契約法7条本文)。

(1) 労働契約締結時に就業規則が定まっていること
(2) 就業規則に定めている労働条件が合理的なものであること
(3) 使用者が就業規則を周知させていたこと

以上の要件は、従来判例で用いられていた要件をそのまま明文化したものであるので、労働契約法の施行によって取り扱いが異なったわけではない。

2 上記の要件の中で、一番問題になると考えられるのが、(2)の「合理的」かどうかということである。 しかし、労働契約法の制定時に参考にされた判例においても、就業規則の定めが合理的か否かの判断についてはケースバイケースであって、明確な基準は存しない。

3 合理性判断の一例として、55歳定年制を定めた就業規則の効力が争われた秋北バス事件(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決 民集22巻13号3459頁)を挙げる。 同事件では、定年制一般について、「一般に、老年労働者にあつては当該業種又は職種に要求される労働の適格性が逓減するにかかわらず、給与が却つて逓増するところから、人事の刷新・経営の改善等、企業の組織および運営の適正化のために行なわれるものであつて、一般的にいつて、不合理な制度ということはできず」、55歳という年齢について、「わが国産業界の実情に照らし、かつ、被上告会社の一般職種の労働者の停年が五〇歳と定められているのとの比較権衡からいつても、低きに失するものとはいえない」と判断している。
さらに、同事件で問題になった55歳定年制は定年退職制ではなく、定年解雇制を定めているから、労働基準法の解雇制限の規制があること、また、再雇用の制度が設けられており、定年制によって生ずる結果を緩和する措置も設けられていて、実際に企業側から再雇用の意思表示があったこと、労働者で組織された会においても後進に道を譲るためにやむを得ないとして定年制を認めていることという事情もあり、55歳定年制は決して不合理なものということはできないと判断されている。

3. 労働条件の変更

諸々の事情から、労働条件を変更したいという場合には、以下の方法によることになる。
なお、労働条件を有利に変更する場合には、労働協約との関係では問題になりうるが、基本的には問題にならないケースが多く、問題になるのは、労働条件を不利益に変更する場合である。したがって、条文も変更一般というよりは不利益変更について規定する形になっている。

1 労働者との合意(労働契約法8条)
労働者との合意によって、労働条件を変更することができる。労働者の同意を得ているので、基本的にはどのような変更をすることも可能である。
ただし、就業規則に定める条件を下回ってはいけない。また、労働協約、法令に違反してはならない(労働契約法12条、13条)。

2 就業規則の変更(労働契約法10条)
(1)就業規則を変更することによって、労働条件を変更することもできる。
この場合、

変更後の就業規則を労働者に周知させること
変更した就業規則の内容が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更にかかる事情に照らして合理的であることの要件を満たすことが必要である。

ただし、労働協約、法令に違反してはならない(労働契約法13条)し、労働契約で労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、就業規則の変更によって不利益に変更できない(労働契約法10条但書)。

(2)労働契約法10条本文の合理性の判断要素については、1月23日付通達の中で第四銀行事件(最高裁平成9年2月28日第二小法廷判決 民集51巻2号705頁)を挙げ、同事件判決の判断要素と異ならないことを明らかにしている。 第四銀行事件判決では、①就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、②使用者側の変更の必要性の内容・程度、③変更後の就業規則の内容自体の相当性、④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、⑤労働組合等との交渉の経緯、⑥他の労働組合又は他の従業員の対応、⑦同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきとしており、1月23日付通達によれば、労働契約法10条本文の判断においても同様の判断をすべきであるということになる。

3 労働協約の変更

(1) 上記の方法のほかに、労働組合との交渉により、労働協約を変更することにより、労働条件を変更する方法がある。
労働協約とは、使用者と労働者団体の代表との間で締結される一種の契約であり、憲法で保障される労働者の団結権(憲法28条)に鑑み、労働契約を規律する効力が認められている(労働組合法16条)。
労働協約により労働条件を不利益に変更できるかどうかについては、労働協約の法的性質、有利性原則や協約自治の限界ともからんで、学説上議論のあるところである。
(2) 定年の年齢及び退職金の支給基準を引き下げた労働協約の効力が問題となった朝日火災海上保険事件(最高裁平成9年3月27日第一小法廷判決 判例時報1607号131頁)では、労働協約の変更により労働者の受ける不利益は決して小さいものではないが、同協約が締結されるに至った経緯、当時の会社の経営状態、「同協定に定められた基準の全体としての合理性に照らせば、同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものとはいえず、その規範的効力を否定すべき理由はない」と判断し、労働協約による労働条件の不利益変更を肯定した。
(3) 朝日火災海上保険事件判決で考慮されている事情は、先述した第四銀行事件判決で考慮されている事情と重なりが見られる。
労働協約が労働組合と使用者との間の一種の契約であるという特殊性に鑑みると、労働協約による不利益変更の場合には、労働組合内部での意思形成過程に着目する必要があると考える(同旨、菅野和夫「労働法」第7版補正版524頁)。

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